多発性硬化症の診断基準について、MSキャビンでは2022年4月24日、YouTubeで生配信を行いました。編集後の動画はこちらです。
- 講義:日本で用いられる多発性硬化症の診断基準(5分半)
- 症例A検討:頭痛を訴える32歳女性・大脳白質に複数の非典型病巣(診断)(10分)
- 症例A検討:頭痛を訴える32歳女性・大脳白質に複数の非典型病巣(再発した場合)(5分半)
- 症例B検討:急性の皮質症状を呈する42歳女性・大脳に非典型病巣(診断)(9分)
- 症例B検討:急性の皮質症状を呈する42歳女性・大脳に非典型病巣(治療)(7分)
- 症例C検討:両側の視神経炎・強い眼痛を呈している63歳女性(診断)(6分)
- 症例C検討:両側の視神経炎・強い眼痛を呈している63歳女性(病態診断と臨床診断)(7分)
この生配信中にご質問をいただきました。当日お答えできなかったので、ここでお返事をお送りいたします。
ご質問
McDonald診断基準について質問があります。 「2回以上の増悪と2個以上の臨床的他覚的病巣」の項目に、「1回の増悪でも、病歴で増悪を示唆するものがあればよい」とあります。どういった病歴があれば、この基準にあてはまりますでしょうか? 「2回以上の増悪と1個以上の臨床的他覚的病巣」との違いも含め、ご教示いただけますと幸いです。
お返事
まず、項目別に事例を記載させていただきます(①は各事例とも共通です)。
【事例 A】
① 右目が急に見えにくくなった。眼科検査で右視神経に異常が認められた。
→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個
② 後日、左下肢のしびれ、脱力が急に始まり、3週間程度続いた。MRIで脊髄に病巣が認められた。
→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個
計→増悪2回、臨床的他覚的病巣2個
【事例 B】
① 右目が急に見えにくくなった。眼科検査で右視神経に異常が認められた。
→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個
② 過去に左下肢のしびれ、脱力が急に始まり、3週間程度続いたことがあったが、病院に行かないまま自然に治まった。
→増悪を示唆する病歴あり、臨床的他覚的病巣なし
計→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個、他に1回、増悪を示唆する病歴あり
【事例 C】
① 右目が急に見えにくくなった。眼科検査で右視神経に異常が認められた。
→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個
② 過去に左下肢がしびれたことはあるが、病院に行かないまま、翌日には自然に消えていた。
→増悪を示唆する病歴なし、臨床的他覚的病巣なし
計→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個、他に増悪を示唆する病歴なし
【事例 D】
① 右目が急に見えにくくなった。眼科検査で右視神経に異常が認められた。
→増悪1回、臨床的他覚的病巣1個
② 後日、再び、右目が見えにくくなった。眼科検査で右視神経に異常が認められた。
→増悪1回、臨床的他覚的病巣は①と同一
計→増悪2回、臨床的他覚的病巣1個
回答は以下の通りです。
「1回の増悪でも、病歴で増悪を示唆するものがあればよい」の基準にあてはまる病歴は上記事例B、となります。事例Cの場合は、この基準にはあてはまりません。
「1回の増悪でも、病歴で増悪を示唆するものがあればよい」(事例B)と「2回以上の増悪と1個以上の臨床的他覚的病巣」(事例D)との違いはB②とD②にあります。
事例Bでは②で臨床的他覚的病巣が医師によって確認できていませんが、1回の増悪に数えることができるため、時間的空間的多発性を満たします。一方、事例Dでは②で臨床的他覚的病巣が医師によって確認できていますが、①と同一病巣であるため、空間的多発性の証明が必要です。
ご視聴くださり、また、ご質問をありがとうございました。以上、参考にしていただければ幸いです。
出演者一同
越智博文、大橋高志、近藤誉之、中島一郎