多発性硬化症(MS)

妊娠・出産

妊娠・出産に問題なし

MSが直接の原因で子供ができにくくなったり、出産に悪影響を及ぼしたりすることはありません。流産、死産、奇形発生、分娩時の合併症のリスクが高まっている事実はありません。もし妊娠・出産によってMSが悪化するといった情報を見たとしたら、それは昔の話です。今は「MSを理由に妊娠を諦めることはない」という見解で一致しています。

妊娠中は安定し、産後は再発しやすい

妊娠中はMSが安定することが分かっています。それは、母体にとっては半分が父親由来の異物である赤ちゃんを排除しないように、母体の免疫のしくみが変わるからです。

しかし産後3〜6カ月程度は再発しやすい状態になります。これは、お腹から赤ちゃんがいなくなることで免疫のしくみが元に戻るからです。育児への不安、過労、睡眠不足、ストレスなど、他の要素の関与も考えられます。

DMDと妊娠・授乳

下表のように、MSの疾患修飾薬(DMD)の中には妊娠中は使えないものがあります。そのようなDMDを使っている場合は別のDMDへの変更が必要になってきます。従って、妊娠の希望がある場合や妊娠する可能性がある場合は、必ず主治医に伝えてください。主治医に言いにくい場合は看護師さんにお伝えください。

【DMDと妊娠・授乳】

薬 剤妊 娠授 乳
ベタフェロン®、アボネックス®、コパキソン®有益性投与有益性授乳
テクフィデラ®有益性投与有益性授乳
イムセラ®・ジレニア®禁忌
(最終投与後2カ月間は避妊)
授乳しないことが望ましい
メーゼント®禁忌
(最終投与後10日間は避妊)
授乳しないことが望ましい
タイサブリ®有益性投与
(妊娠34週 まで)
添付文書には「最終投与後12週間は授乳を中止すること」と記載
ケシンプタ®有益性投与
(添付文書には「最終投与後6カ月間は避妊」と記載)
有益性授乳

「有益性投与」
治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与
「有益性授乳」
治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討

不妊治療・性ホルモン製剤

不妊治療はMSの人に禁止されていません。通常の妊娠と同じく病状を安定させておくことが大事なので、不妊治療中もDMDを継続します。その場合、妊娠に影響がないDMDの選択が勧められています。経口避妊薬や婦人科疾患で使われる性ホルモン製剤もMSには禁止されていません。

男性がMSの場合

男性がMSの場合も、MSが直接の原因で子供ができにくくなったり、出産に悪影響を及ぼしたりすることはありません。MSで使われる薬の中では、妊娠に関して男性側に注意が必要とされているものはありません。
(2024/8/17更新)