2020年12月のウェブフォーラムでMSと献血についてご質問いただきましたが即答が難しかったため、後日の宿題といたしました。後日、演者の水野昌宣先生(岩手医科大学)が調べてくださったので、ご回答を掲載いたします。MSキャビンの先生方もご確認済みです。
【質 問】
MSの私は献血に行ってもいいのでしょうか? 以前にあったMSキャビンさんのFAQでは、献血はできないと書いていたような記憶もあるのですが・・・。
中田より – 「献血できない」ではなく「あえて献血しなくてもいいのでは」と記載していたことがあります。骨髄バンクについてもお聞きしたいです。
【回 答】
上記の内容に関して解答します。
献血に関しては「日本赤十字社」、骨髄ドナー登録に関しては「日本骨髄バンク」のホームページを参考にして下さい。
献血 →できない
まず、献血に関してですが日本赤十字社のホームページによると、年齢や身長体重、血圧、脈拍、体温、血算など献血基準が決められており、全血200ml、全血400ml、血漿や血小板などで基準も異なります。
この献血基準を満たしていても体調や疾患、感染症のリスクなど様々な理由で献血をご遠慮いただくことになります(http://www.jrc.or.jp/donation/about/refrain/)。
例えば特定の疾患にかかられている方、HPの記載によると心臓病・悪性腫瘍・けいれん性疾患・血液疾患・ぜんそく・脳卒中・ネフローゼ症候群、アレルギー性疾患等と診断されている方は、服用されている薬剤の影響や献血による疾患への影響が危惧されますので、献血をご遠慮いただいていますと記載がなされています。
多発性硬化症に関しては具体的に明記はなされておりません。薬剤に関しては、内服していても特に支障のない薬は、ビタミン剤およびごく一般的な胃腸薬などの類。それ以外は病気の種類や薬の種類によって献血をご遠慮いただくことがあります。また、外用薬、坐薬、点眼または点鼻薬でも、その内容により献血できない場合がありますが、その判断は医師が行います。MSは現実的にDMD(疾患修飾薬)を服用している患者様がほとんどであり、基本的には献血は遠慮いただくことになりそうです。
仮に未治療の多発性硬化症の患者さまはどうかと思い、私の方から日本赤十字社に直接問い合わせ、多発性硬化症の患者様の献血の可否について以下のように解答をいただきました。
ーーー 日本赤十字社では献血いただく方・輸血を受けられる方双方のご健康と安全をお守りするため、採血に関して様々な基準を設けており、服薬に関しましては、服用の目的となる疾患及びその治療状況をもとに献血の可否を判断しております。お問い合わせいただいた多発性硬化症につきましては、既往のある方の献血はご遠慮いただくこととしております。こちらは献血される方のお体に最大限配慮した対応となりますので、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。 ーーー
以上より多発性硬化症の方は献血参加はできないと考えていいかと思います。
骨髄ドナー登録 →できない
骨髄バンクについての問い合わせですが、ドナーの条件としては、骨髄・末梢血幹細胞の提供の内容を十分に理解している方、年齢が18歳以上、54歳以下で健康な方、体重が男性45kg以上/女性40kg以上の方となっていますが、さらにドナー登録できないケースに8項目の記載があり(https://www.jmdp.or.jp/reg/about/requirement.html)、多発性硬化症患者の骨髄の提供に関しましては、DMDを使用されている方がほとんどですので、項目1の「病気療養中または服薬中の方 特に気管支ぜんそく、肝臓病、腎臓病、糖尿病など、慢性疾患の方」に該当すると思います。
また、多発性硬化症は自己免疫疾患に含まれますので項目2.の「以下の病歴がある方 悪性腫瘍(がん)、膠原病(慢性関節リウマチなど)、自己免疫疾患、先天性心疾患、心筋梗塞、狭心症、脳卒中」に該当すると思います。
以上より多発性硬化症の方は骨髄ドナー登録はできないと考えていいと思います。
臓器提供 →各種検査の上で可能
以下 2021/1/14(木)追記
【追加のご質問】
臓器提供は可能でしょうか?
【回 答】
結論から言うと疾患修飾薬使用の有無に関わらず多発性硬化症患者の臓器提供は、各種検査の上で判断されれば可能となります。
当然、他の方々と同様に、移植する臓器、ドナーの年齢や感染症や癌の合併の有無、健康保険証や運転免許証等の意思表示欄に記入した意思などから判断することになります。以下に詳細を記載します。
「公益社団法人日本臓器移植ネットワーク」の「よくある質問」というページが参考になります。
「臓器は誰でも提供できますか。また、年齢の上限はありますか」という質問に対し、「がんや全身性の感染症で亡くなられた場合には、臓器提供できないこともありますが、実際の臓器提供時に検査等を通して医学的な判断をします。臓器を提供する場合、臓器提供適応基準では、おおよそ心臓50歳以下、肺70歳以下、腎臓70歳以下、膵臓60歳以下、小腸60歳以下が望ましいとされています。しかし、この年齢を越えた方でも、医学的に提供が可能である場合もあります。健康保険証や運転免許証等の意思表示欄に記入した意思はいつ活かされるかわかりませんので、年齢に関係なく、現在の意思を記入してください」とあります。
また「病気にかかっており、薬を服用しています。また、輸血の経験などがあるのですが、臓器提供はできますか」という質問に対し「実際に臓器提供のお申し出を家族からいただいた際に、既往歴の確認及び様々な検査の実施等により、提供ができるかどうか医学的な判断を行います。過去や現在の健康状況や輸血歴にかかわらず、現在の意思を健康保険証や運転免許証等に表示しておくことで、臓器の提供につながります」と書かれています。
明確な基準が確認できず、直接問い合わせ窓口にメールをさせていただき以下の質問に対し返答をいただきました。
お問合わせ(1)
「多発性硬化症は臓器提供可能でしょうか?」
→厚生労働省から発出されております臓器提供者(ドナー)適応基準では、具体的な疾患については記載されておりませんので、多発性硬化症の患者さまにつきましては臓器のご提供は可能です。
お問合わせ(2)
「薬剤の内容によって臓器提供できないものはありますか?」
→同じく臓器提供者(ドナー)適応基準において、薬剤については、大量のカテコラミン剤の使用は移植の適応を慎重に判断するとされておりますが、その他に具体的な薬剤についてはドナー適応外とはなっておりません。
お問合わせ(3)
「そもそも疾患やその治療の内容により基準というものが存在するのでしょうか?」
→先生からご推察をいただていますように、疾患やその治療の内容による明確な臓器提供者(ドナー)適応基準はございません。当社団HPに基準とされている臓器提供者(ドナー)適応基準を掲示させていただいておりますので、ご参照いただけますと幸いです。
→ドナー適応基準(日本臓器移植ネットワーク)