視神経脊髄炎(NMOSD)

ユプリズナ®

視神経脊髄炎(NMOSD)は再発を繰り返すのが特徴です。再発の程度も大きく、1回の再発で歩けなくなったり目が見えなくなったりすることもあります。このようなことを繰り返すと障害が増えていってしまうため、NMOSDでは診断されたらすぐ、再発を予防する治療を始めます。

NMOSDの再発予防薬には、大きく分けて、経口の免疫抑制薬と生物学的製剤があります。ここでは生物学的製剤のイネビリズマブ(ユプリズナ®)について解説しています。6カ月に1回の点滴薬です。日本では2021年に承認されました。

更新:
2024年4月2日(全体を改訂)
2022年4月27日(新規公開)
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

NMOSDは血液中のアクアポリン4抗体(AQP4抗体)が、アストロサイトの足突起にあるアクアポリン4を攻撃することによって起こります。このAQP4抗体はB細胞から産生されます。

ユプリズナ®はB細胞のうち「CD19陽性B細胞」という種類のB細胞を除去する作用があります。それによりAQP4抗体の産生が抑制されます。

治療を始める時は初回、2週間後に点滴し、その後は初回投与から6カ月後、以降6カ月に1回の間隔で点滴します。1回の点滴所要時間は120分ほどです。入院は必要なく、外来での治療が可能です。

使用期間は決められていません。ユプリズナ®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けた方がいいといえます。

ユプリズナ®の治験では、AQP4陽性の患者さんの再発リスクを、偽薬との比較で単剤で77.3%低下させました。また偽薬群に比べて、EDSSの悪化を抑制し、MRIの活動病巣を減らし、入院回数を減らしたことも認められました。

「再発しない=効果が出ている」と考えると、いつから薬の効果が出ているのかは判断が難しいです。参考として血液中のユプリズナ®量は、ユプリズナ®投与後すぐに増えることが分かっています。またユプリズナ®を投与してから血中のB細胞が消滅するのに約1カ月かかります。

ユプリズナ®を使用してもNMOSDは完治しません。現在、NMOSDを完治させる薬は存在しません。

ユプリズナ®添付文書には、「抗AQP4抗体陰性の患者において有効性を示すデータは限られている。本剤は、抗AQP4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。

小児NMOSDに対しての臨床試験は行われておらず、添付文書にも使用についての記載がありません。

ユプリズナ®の維持期の年間薬剤費は2024年4月1日現在、約2,097万円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。
※医療費助成の条件にご注意ください。ユプリズナ®の投与頻度は6カ月に1回です。

副作用

B細胞を除去する作用があることから、感染症にかかりやすくなります。またB型肝炎にかかったことがある場合は、ウイルスが再活性化し、劇症肝炎を引き起こす可能性があります。

点滴に伴って呼吸困難、意識の低下、意識の消失、まぶた・唇・舌の腫れ、発熱、寒気、嘔吐、せき、めまい、動悸などの全身反応(インフュージョンリアクション)が起こることもあります。

モノクローナル抗体製剤で懸念される進行性多巣性白質脳症(PML)に関しては、ユプリズナ®では報告されていません。しかし同じ系統のB細胞除去療法(リツキシマブ)でPMLが報告されているため、念のため注意は必要です。PMLに関しては多発性硬化症の薬「タイサブリ®Q&A」をご覧ください。

感染症にかかりやすくなるとはいえ、過度に神経質になる必要はありません。一般的な感染対策をしてください。B型肝炎に関しては治療開始前にB型肝炎の抗原・抗体検査が行われます。

インフュージョンリアクションに関しては、その予防のため、ユプリズナ®の投与前には毎回、点滴のステロイド薬や内服の抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤が使われます。

他の治療・予防接種について

ユプリズナ®使用中のステロイド薬や免疫抑制薬は禁止されていません。ただしステロイド薬は感染症リスクを高めます。ユプリズナ®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けた方がいいと考えられます。

とはいえステロイド薬を減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ずユプリズナ®とステロイド薬を併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。

一方、ユプリズナ®は効果が現れるまで時間がかかります。臨床試験ではユプリズナ®の最初の点滴から3週間はステロイド薬が併用されていました。これらも踏まえて主治医とご相談ください。

ユプリズナ®には併用が禁止されている薬剤はありません。NMOSD患者さんの多くはステロイド薬や免疫抑制薬、対症療法のための薬剤を服用していますが、そういった薬剤との併用は禁止されていません。

ユプリズナ®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合にはステロイドパルス療法や血漿浄化療法が行われることがあります。次回の投与については主治医と相談してください。

変更可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

ユプリズナ®の治療中は、インフルエンザや帯状疱疹などの不活化ワクチンやコロナワクチンは受けられますが、ワクチンの効果が十分に得られないかもしれません。

ワクチン接種時期については、ユプリズナ®の投与と投与の間くらいの接種が勧められています。

麻疹ワクチン、風疹ワクチン、水痘ワクチンなどの生ワクチンを接種すると、ワクチンの病原体が体内で増殖する可能性があります。ユプリズナ®の治療中、および中止後もB細胞数が回復するまでは生ワクチンの予防接種は避けてください。

日常生活

運動や仕事の制限は特にありません。感染症にかかりやすくなることがあるので、体調管理にご注意ください。

ユプリズナ®の治験では、投与半年を過ぎると、一部の患者さんで B細胞が回復してくる傾向が認められています。投与のタイミングで長期旅行や出張がある場合には、早めに主治医に相談してください。

妊娠・出産

ユプリズナ®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。催奇形性の報告はありませんが、添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい」「本剤投与中及び最終投与後6カ月間は適切な避妊を行うよう指導すること」と書かれています。安全性に関する知見が十分ではなく、慎重な対応が必要です。

ユプリズナ®使用中に妊娠した場合は、出産後に子供の血液中のB細胞をチェックする必要があります。

添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ただ、ユプリズナ®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響を与えないとの見解もあります。